世間からは似ていることがアイデンティティーのようになっている双子。
でも実際に育ててみると……
同じ時に生まれて
同じ屋根の下
同じように生活しているのに
それぞれの違う個性を実感されている多胎ママも多いのではないでしょうか?
しかも、一卵性双生児であれば遺伝子のDNA配列は全く同じはずなのに、なんでこんなに違うんだろうと不思議ですよね。
そのヒントは遺伝学の「エピジェネティックス」にありそうです。
遺伝子にはスイッチがある
一卵性双生児は同じ遺伝子を持ちながらも、体格差があったり、一方だけが発達障害になったり、乳癌になったり、同性愛者になったり…という違いがでてくることもあります。
これまでは持って生まれた遺伝子は変わらないと考えられてきましたが、遺伝子のオンとオフに関わるメカニズム『エピジェネティックス(Epigenetics)』が遺伝学の一つのトピックになっています。
そもそもDNAって?
DNAの二重らせんは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という、たった4種類の塩基の組み合わせで全ての遺伝情報を記しています。
つまり、生命の設計図と言われるのが、このDNAの塩基配列です。
ヒトを作る遺伝情報は、DNAの塩基配列として一生涯変わることはありません。そして、ヒトの中の60兆個の細胞の中には全て同じ遺伝情報が入っています。なので一卵性双生児の体中の細胞の中にある遺伝情報は全て同じです。
しかし、遺伝子を働かせるスイッチが双子の違いを生じさせている可能性が明らかになってきました。つまり、一卵性双生児の遺伝情報(DNAの塩基配列)は同じでも、遺伝子が働くスイッチが入っているか切れているかは個々で異なるのです。
一卵性でもこんなに違う!?
少し生物学的な話で難しくなってしまったので、双子の体格を例に出しますね。
これを読んでいる多胎ママの中には、一卵性双生児を妊娠中に双胎間輸血症候群(TTTS)で大変な妊娠経過を経験された方もいらっしゃると思います。胎盤を共有する胎児たちの血流が偏ってしまい、2人を比較すると受血児は大きく、供血児は小さく生まれます。単純に胎児期の栄養の問題であれば、同じ遺伝情報を持つ双子ですから、同じような環境で育てれば同じような体格になりそうですが、ある程度育ってもその体格差が残る実感があるのではないでしょうか。
それは2人のDNA配列が同じでも、体格に関わる遺伝子のスイッチのオンとオフに差があるからかもしれません。
胎児期の環境も遺伝子の発現のスイッチに影響する
胎児期の環境も遺伝子の発現のスイッチに影響し、大人になってもこの影響は残ります。
多胎児だと、早産や低出生体重児で小さめに生まれたというお子さんも多いと思います。
実は、低出生体重児の子は成人期に生活習慣病になるリスクが高いかもしれないという研究もあるのですが、これは胎児期の低栄養の環境がエネルギーを溜め込みやすいようにするためのスイッチ(エピジェネティックスな遺伝子の調整)が働くためと考えられています。
もちろん、『エピジェネティックス』という新たな知見が分かってきても、結局は昔から言われているように、子どもの頃からの食事や運動習慣などが大切というところに変わりはないようです。
生物学に興味がある人向けにちょっと詳しく。
エピジェネティックスは後成説(エピジェネティス)+遺伝学(ジェネティックス)を合わせてできた言葉です。
これはDNAの化学的な変性によって遺伝情報発現が調整されるメカニズムです。DNAの化学的な変性とは何かというと、生物学をやったことがある人なら聞いたことがあるかもしれませんが、DNAのメチル化とヒストンのアセチル化のことです。メチル化はDNAを構成する塩基ATGCのうちの一つ、C(シトシン)の特定の位置にメチル基がつくことによって、その部分の遺伝情報の発現を抑制します。逆にアセチル化は、長いDNA鎖がヒストンに巻きつけられてコンパクトに畳み込んでいるクロマチンの特定の位置にアセチル基がつくことによって、その近傍のDNAをほどいてRNAへの転写を促し、その遺伝情報を発現させます。
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